2021年10月16日


止まない雨は降り積もる (格安文庫)

 本日は素乃滝ハルマさんの『止まない雨は降り積もる』を読んだ。ランダムに表示されたオススメから選んだ一冊である。アンリミの月額料金980円のために、もっと精を出して読まないといけないのだが。

 さて、本作は色々と思うところのある電子書籍であった。私も五十を超えてくどい物言いは控えようと自戒はしているのだが、この作品は自分の中の物差しに引っかかるところがあったので、作者さんと面識はないのだが、同じ作り手として感じたことを書き残しておく。

 まず冒頭からタイトル通りの雨、これが延々と降り続ける謎の現象が続く。世界規模で。 交通機関はマヒし、道路は冠水し、川は氾濫する。出社できない主人公と、妊娠中の妻は止まない雨をマイホームの窓から眺めている。

 ここで止まない雨へのストレスを抱える二人のやり取りは良い。自然な会話でリーダビリティも高い。作者さんは無理にSFに挑戦せずとも、リアルな世界を舞台にした方が向いている、と思う。

 ここからが読みながら『ん?』と思ったことで、まず何年も雨が降り続けたおかげで水位が上昇し、山も飲み込まれ、日本は水没し、雲にまで手が届きそうになる(んなアホな!)。

『SFだから』という反論もあるだろう。しかし未曾有の危機を経過したにしては、主人公たちがあまりに平然としているのだ。 金持ちは東京ドーム的な水中都市に住み(陸上と同じ生活ができる)それ以外の者は浮島を作り、その上にマイホームを建てて水上生活をする世の中になっているのだ。

 結構呑気に水に浮かぶマイホームで二人は雨に対して愚痴を言い合う。真剣にストレスから二人が言い争いをしているシーンを読みながら、私は目の前にボタンがあったら『ちょっと待てぃ』を押しまくるだろう。

 まず〜バスはボートに置き換えられ〜とか、世の中が水上生活にあっさりと移行しているが、世界が水に飲み込まれているのに、電気は、ガスは、水道は。化石燃料は水の下なのにどうするのか。食糧もそうだ。その描写も〜この災害で人口が大幅に減ったので、ジェットスキーで国から配布される備蓄分の食料とカセットガスで賄える〜みたいな説明があり、おいおい、となった。

 国は無償で全国民に配布してくれるのだろうか。この主人公たちの命運を分けた描写が皆無。手作りでも素人がイカダを作るのだって大変なのに、降り続ける災害の最中、スルーっとある日から浮いた人工島にマイホームを建てて浮遊生活が始まっているのだ。その資金は。雨の中工務店でも来て作ってくれたのか?

『小説は何を書いても良い』確かにそうだが、会話がしっかりと進行しているだけに、その設定の落差が気になって仕方がなかった。あと妊娠している奥さんの意味も、あまり物語に食い込んでこなかった。

 そうしてラスト。これは地球がソ○リス的なこと、もしくは人類補◯計画的なことになってしまった、ってことでしょうか? このオチに持っていくのなら、やはり細部の詰めは、うるさ方の私のような読み手からツッコミが入らぬよう〜偶然停泊していた漁船に乗り込むことができ、食糧も燃料もあったことから生き延びることができた〜くらいの現実味がないと、二人のやり取りを読みながらでもバックボーンが気になって物語が入ってこない、みたいな方も多いことかと思います。

 会話劇が活き活きとしているので、リアルな世界観で描けば、読み手をねじ伏せられるのではないでしょうか。

 妄言多謝。 

(10:09)

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